1を言って10伝えるWebと、100以上言って1を伝える本のこと、そして今年の仕事のこと。
30歳の誕生日に、何となく節目だし最初で最後だろうと、友達をたくさん招いて自分の誕生日会を開いたんですが、思えばこのとき、30代の目標として「本を書く」と言った記憶があります。当時はまだ文章を書いてお金をもらったこともなかったし、ブログすらバズってなかったので、今となっては良くあんなこと言ったなという感じですが、34歳になった今年、気がつけば2冊の本が世に出ました。
振り返ってみると今年の上半期は、その2冊の本の最後の仕上げに追われており、延々と文章を直していました。
下半期は、そうやって出た本をたくさんの人に知ってもらうべく、取材を受けたり、トークイベントをやらせてもらったりしました。
この前半と後半の環境の変化に、当初はかなり消耗しました。
これまでにもごくまれにウケ狙いのライトニングトークなどを人前で披露することがあり、これはもともと好きだったんです。起承転結の構成を練って、その中の狙ったところで素直に観客が笑ってくれると、文筆ではどうしたって得られない、発信者と受信者とのリアルタイムのコールアンドレスポンスに気分が高揚し、私こういうの向いてるな、とすら思っていたんですが、本に関連する取材やトークイベントで私のやるべきことは、ウケ狙いでなく実りある話をお持ち帰りいただくことだったんです。これがなかなか難しかった。夫婦円満の秘訣とか、旦那に浮気されない方法とかを質問していただくこともありましたが、そんなものが分かれば『家族無計画』などという本は世に出ているはずがないのであります。でも、質問してくださる記者の方の気持ちもわかります。世にこれだけ情報が氾濫している中で、貴重な読者の時間を使って、私のインタビューを読んでもらわなければならないのです。スパーンと明快な答えを提示してあげたい。でも嘘は言いたくないし……最大公約数の答えを探し続ける一方で、仕事を抜きにした私の個人的な関心は、今年の後半からちょっと別の方向に移っていきました。
私はこれまで主にWebで、1500〜3000字くらいのエッセイを多く書いてきました。Webに最適な文章というのは、表現がシンプルで、スピード感があって、1言って10伝えるような文章。私の書いた2冊の本は、2冊とも短編の集合体なのでそれぞれの文章はWebとあまり変わらない作りになっていますが、一通り制作に携わったあとで感じたことは、本というのは本来、それとは全然違う伝え方ができるものだったんだなということでした。
本というのは、100とか1000とか10000を言って、1を伝えられる媒体なのです。
私はもともと、全然読まない人よりはそこそこ本を読みますが、本の制作に携わるプロたちに比べると圧倒的に読書量が少なく、また作り手の目線で読むということも全くしてこなかったので、作り終わってから初めてそのことをリアルに感じ、途端にそこはかとない魅力を感じました。多くを言って1を伝えるというアプローチは伝える方にも受け取る方にもそれなりに基礎体力を必要とし、あらゆるサービスが個人の可処分時間を奪い合っているこの時代に、必ずしも最適なやり方とは言えないかもしれません。それでも、私が本を出した後に出会った、たくさんの本を読む人たちは、やっぱり、1冊の本から、1つの大きな真実を受け止めたいと、そのことを望んでいて、私もまた彼らから、そういう読書の魅力を教わりました。
少し話はそれますが、Webのエッセイをより広く読まれるものにするためには、どうしても自己啓発的な結論が必要です。1を言って10伝えるためには、すぐに効きそうな、強い薬が必要なんです。でも、上でも書いた通り、夫婦円満の秘訣、とか、旦那に浮気されない方法、とか、無限にある個々のケースが前提となる問題に対して、強く効く薬って当然ながらなくて、こういったケースではこういうのが効きますよ、多くの人にとっては嘘です。短い文字数で、シンプルな脈絡の中で語られる真実は、やっぱり残念ながら大きな穴がたくさん空いているのです。
そんな中でも、できる限り誠実でいたいと、私自身はあくまでも自分や、友人の体験をベースにした話を展開するようにしてきました。それはそれでやりがいのある取り組みですが、一方で、もっと嘘にならない、もっと盤石な真実を書きたい、と欲深いことを、最近は思うようになりました。
そのためには私自身の未熟な思考力をタフに鍛えなおす必要があり、また言うまでもなく技術も磨いていかなくてはなりません。来年以降、30代後半戦は、ひとつそういうことをやっていきたいなというふうに感じています。
道のりは長い。奇跡的に30歳の決意「本を書く」が実現できたと思ったらまた、ずっと遠くに高い山。しかしそうやって誰に頼まれたわけでもなく取り組まざるを得ないものがある、そんな愚かさこそが、きっと人生を豊かにしてくれる。(みたいな一言があるのがWeb的な文章です)
最後に、今年やった仕事をダイジェストで並べます。
<1月>
Project Dressで連載が始まりました。
雑誌『リンネル』で取材していただき、奇跡の写真を撮ってもらいました。
<2月>
SOLOの連載続いてます。しばらくお休みしてしまいましたがまた来年から頑張ります。
Project Dress”女を磨く離婚道”という力強いタイトルの特集に寄稿しました。
<3月>
HRナビで株式会社バーグハンバーグバーグのシモダくんのインタビューをしました。あまりに原稿を長く抱えすぎたせいかHRナビさんから次の仕事がきませんが次は早く仕上げますので何卒よろしくお願いいたします。>HRナビ編集部御中
30代の恋愛について、最も信頼するWeb編集者、金井さん率いるAMに寄稿しました。
<4月〜5月>
ウーマンエキサイトでWEラブ赤ちゃんプロジェクトが始まりました。公共の場で泣き止まない赤ちゃんを抱えるお母さんに、「大丈夫ですよ」と伝えるステッカーを作りませんか?という提案を、ウーマンエキサイト編集部が快く受けてくださったものです。
ケコーンという結婚についてのサイトに寄稿しました。この記事は個人的にもなかなか満足度の高い仕上がりでした。(はてな同士なはずなのになぜかリンクがおかしい。。)
【紫原明子寄稿文】「だって幸せそうって思われたい」人たちが本当に幸せになるには - Kekoon(ケコーン) - 結婚・結婚式・恋愛に関するサムシング情報をお届け!
ファッションデザイナー鷺森アグリ氏の主宰する本のプロジェクト『abooks』に執筆で参加しました。全ページフランス折りの美しい本です、買ってください。
人生に効く本について、ウートピに寄稿しました。(紹介した本が絶版本。)
<6月>
ついに1作目の本が発売となりました。
本についてBuzzFeedにて記事にしていただきました。今年は本当にBFの記事をたくさん読みました。
<7月>
3ヶ月限定でオンラインサロンもやりました。濃密でした。
ブログ以外で一番最初に寄稿した媒体、ハフィントンポストに取材していただきました。
『小説すばる』に短いエッセイを寄稿しました。
「灯台もと暮らし」さんには働く母として取材していただきました。もとくらのようなメディアが来年以降より人気になりそう。(含願望)
週プレさんにもインタビューしていただきました。水着になれない体で申し訳なかった。
都知事選についてポリタスに寄稿しました。ポリタスへの寄稿が本当に最も大変なので、この記事では望月優大(id:hirokim21)先生に相談に乗っていただきました。
私は都知事になりたくない(紫原明子)|ポリタス 参院選・都知事選 2016――何のために投票するのか
<8月>
フリーランス化ということでGooGirlさんに取材していただきました。
そして2冊目の本『りこんのこども』が発売となりました。
はたらく女性の深呼吸マガジン「りっすん」に取材していただきました。メディア立ち上げに際してのインタビューで、大変光栄でした。
<9月>
日経デュアル編集長とお話しさせていただきました。(デュアルじゃない身で)
<10月>
校閲界の葉加瀬太郎「かもめブックス」柳下さんのインタビュー記事を書きました。
<11月>
ウートピにてライター小沢あやさんにインタビューしていただきました。
ご結婚されたタレント下田美咲ちゃんにインタビューしました。
Eatrip野村友里さんのラジオのコーナーにてお話しさせていただきました。
WONDER VISION : J-WAVE 81.3 FM RADIO
BizLadyにて仕事や結婚についてインタビューしていただきました。
ウーマンエキサイトで子育てにまつわる新しい連載が始まりました。なんと週1の更新です。
なんとデーブ・スペクター夫妻を取材しました。
<12月>
SOLOの「さみしさは敵か」という特集に寄稿しました。
何かと話題沸騰中のクロワッサンにて『りこんのこども』について取材していただきました。
そして今年は志茂田景樹さん、山崎ナオコーラさんをはじめとし、たくさんの先輩方とトークイベントでご一緒させていただきました。
<イベントレポート、イベントの記録>
紫原明子×柳下恭平が考える、現代女性と家族の在りかた『家族無計画』トークイベントVOL.1 | TOFUFU
セックスした相手を特別扱いしないことは「嫌われる」一因になる/紫原明子×枡野浩一【1】 - messy|メッシー
研究者の「結婚方程式」とクリエイターの「求愛表現」|求愛表現の研究――石川善樹×紫原明子×鷺森アグリ|鷺森アグリ/紫原明子/石川善樹|cakes(ケイクス)
山崎ナオコーラ×紫原明子、真逆なふたりが家族論・育児論を語る (1) 女にとらわれず、妻や母やから脱する生き方 | マイナビニュース
【ライター交流会】理想の職業!? 女性ライターの働き方 | Peatix
「規格外だけど、愉しい家族」 志茂田景樹 × 紫原明子 トークイベント | 青山ブックセンター
【恋愛・結婚・仕事・家族】アラサー・アラフォーのための人生100年時代の生き方【ゲスト紫原明子】 猫町倶楽部 -猫町倶楽部の読書会-
※お仕事の情報は随時FBページに記録していますのでよければご覧ください。
そんな感じで今年は本当にたくさんのお仕事をいただきました。
関係者のみなさま、読者のみなさま、誠にありがとうございました。
来年も、どうぞよろしくお願いいたします。
これは先日焼いたクリスマスケーキ。