煎餅ひっくり返し地獄
生まれてこの方、網の上の煎餅をひっくり返し続けている。
こちらがオモテだろうと思ったのもつかの間、しばらくすると、それまでウラだと思っていたほうがどうしてもオモテのような気がしてきて、うーんやっぱこっちだったかとひっくり返す。ひっくり返した直後は毎回、今度こそこちらが間違いなくオモテだろうと思う。けれどもやっぱり時間が経つと間違っているような気がしてくる。こっちじゃない、こっちじゃないという思いに歯止めが効かなくなってくる。ひっくり返したくて我慢できなくなってくる。ここで自分に負けてはいけない、この終わりなき煎餅ひっくり返し地獄から抜け出すには、本来オモテもウラもないという事実をありのままに受け入れ、ついひっくり返してしまう自分に打ち勝つことだ。堪えて、ここはぐっと堪えて。煎餅を前に箸を持って構える私にもう1人の私が説く。煎餅を前に箸を持って構える私は、しおらしい顔をしてふむふむと頷く。分かったよもう煎餅をひっくり返すのはやめる。煎餅を前に箸を持ったままの私が答える。事態は丸く収まったかに見える。
しかしそこへピューっと、家の中をかき乱す強い突風が吹き込む。はわわわ!大変だ大変だ!飛ばされそうなものを抑えて!窓を閉めて!私は大慌てを装いながら、混乱に乗じてさっと網の上の煎餅をひっくり返す。これでよし。
十分に満足して素知らぬ顔。
ところでこれは今日焼いたパン。
自家製レーズン酵母を使って仕込んだものの10時間待っても一次発酵が進まず、こりゃダメだと思って放置して寝て起きたら膨れていた。なかなか底力があるやつだ。