可笑しさと愛

先日、ありがたいお誘いをいただきはじめて能を観てきた。正直こんなに面白いものとは思いもよらず目からウロコだった。退屈そう、難しそうという先入観が邪魔をして食わず嫌いをしていたことを後悔。何世紀も人々を魅了し、気分を高揚させてきたライブなのだからそりゃ面白いに決まっているのだ。限られた楽器と限られた舞台装飾、そして演者さんの限られた動きで極めてストイックに物語が表現されているのに、なぜこうも躍動感を感じてしまうのか、なぜそこにあるもの以上のものを観てしまうのか、なぜドキドキするのか、なぜ手に汗握るのか、不思議なことだらけだった。伝統あなどってた。

と同時に、同じ日に観た狂言もまたとても面白かった。今回観たのは「柿山伏」「子盗人」の2作で、前者は山伏が柿を、後者は博打打ちがよその家の金目のものを、ともに泥棒しようとする話なのだけど、よこしまな心を持った悪いやつらなのにマヌケでドジで憎めない。ついつい可笑しくて笑ってしまう。

そもそも私はそういう世界が好きなのだ。
「あいつは本当に酷いやつなんですよ!」「あんなことしてきたあの人絶対に許さない!」と口を尖らせ眉間にシワを寄せどんなに苦々しい顔で言ったとしても、安易に同調するでもなく、むしろ笑いながら右から左に聞き流す程度の相槌を返してくれる人が好きだ。欲を言えばその中で一つ二つギャグを飛ばして可笑しさで着地させてくれる人なんかとくに神だ。なぜならそういう人たちはわたしの憎むべき相手を悪者にしないことで、私を悪者にしないでいてくれる。可笑しさで憎しみを包み込んでわたしを救出してくれている。

マヌケなやつはいても悪者はいない、可笑しさが軸となる世界で生きていきたいものだ。

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ところでこれは今日焼いたパン。
映画「かもめ食堂」のレシピということだ。
レシピの半分の量で焼いた。また、ちょっと怯んで、お砂糖の量を20gほど減らした。
きび砂糖を使ったせいか蒸しパンのように柔らかな甘さのパンになった。