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映画「ちはやふる」を観ないのは人生の損失。

 

ちはやふる(1) (BE・LOVEコミックス)

書こう書こうと思ってバタバタしていて遅くなってしまったのですが、「ちはやふる」の映画、上の句、下の句を続けて観に行って、めちゃくちゃ泣いてしまいました。「ちはやふる」は、今更いうまでもないかもしれませんが、競技かるたに青春をかける少年少女たちの物語で、大ヒットの漫画が原作となっている映画です。

私は「りこんのこども」という連載をマガジンハウスさんとともにcakesでやらせてもらっているのですが、これは親の離婚を経験したお子さんに2時間ほどお話を伺って、彼らの気持ちや生活の様子を事実をもとにした物語として再構成する、というものです。ちょっと抽象的ではありますが、この作業は、何百本もの糸で複雑に編まれた一つの巨大な作品を、私が勝手に紐解いて、糸の数を減らして、見た人に、結果的には両者が近しい印象を与えるような、より小さな、手に取りやすい作品に編み直すというようなものです。作品が小さい分、1本の糸の色をより際立たせたり、登場人物を最小限に絞ったり、本筋を正しく、ぼかさず伝えるための配慮が必要です。

で、元々漫画や小説で原作のある作品を映画にするというのも、本質的にはこれと同じことなのだろうと思うんですが、映画「ちはやふる」を観たとき、この、小さく編み直す作業が、ものすごく巧妙にできていると、失礼ながら大変感動してしまいました。

主人公千早が発足した競技かるた部は全部で5人。上の句では、2時間ほどの物語で、それぞれにきちんと役割が与えられ、全員が愛すべき存在として個性を放っている。愛すべき存在となり得るだけの人柄が、動きやセリフ、エピソードによって描かれているんです。特に準主役となる太一の物語の描かれ方は秀逸で、太一が幼少の頃から背負ってきたとある罪と、その葛藤を表現するために、映画では「神様」という言葉がよく出てきます。また、かるた教室の原田先生が神職となっているのも特徴的です。

そもそも「ちはやぶる」という言葉は神にかかる枕詞だそうで、その言葉の一部を自身の名前として背負った主人公、千早は、美しく、ひたむきで、正義感が強く、太一や新、その他周囲の人たちにとって、確かに神のように眩しい存在として描かれています。この眩しさに人間らしくあてられて葛藤する太一がそもそも私はとても好きなのですが、映画では「神」を出すことで、この太一の抱える葛藤も、千早への憧れや好意も、また競技かるたという一瞬の勝負に挑む者の心理も、観る者に一気に伝わるようになっているんです。

脚本もさることながら、映像も本当に素晴らしいです。千早は天性の耳の良さで、読手の発する一言目の子音を聞き分け、札を取りにいけるという才能を持っているのですが、映画ではこの千早の聴覚を疑似体験できるようになっていて、その瞬間の描きかたに鳥肌が立ちます。集中した状態から音を聞き分ける緊張感、その後札を取りに行くまでのスポーツたる躍動感、緩急のつき方が圧巻です。

上の句で散々それら美味しいところを堪能した後、下の句でいよいよ登場するのがクィーン若宮詩暢(しのぶ)。広瀬すずのあまりの顔の造形の整い方に、画面上の存在感において彼女とライバルになり得る存在などないのではと思っていたところに、え、なんで!?この人こんなだった?!と驚愕せずにはいられない、松岡茉優の圧倒的な佇まい。彼女が、音を立てないかるたを取る、その仕草が綺麗すぎて、驚きの涙が出ます。私は一気にファンになってしまいました。。

上の句、下の句を見終わった後、ふいに思い出したのが、もう何年も前に観たこのCMです。※2本立てなので後編の方観てください。

 


au CM 「LISMO Fes!」篇15秒/30秒 川口春奈

爽やかな曲に載って大きく映し出される千早。この頃私はまだ漫画「ちはやふる」を知らなかったのですが、何と美しい絵だろうと、物語もろくに知らないのに、あの一瞬を切り取った表情が後々ずっと印象に残っていて、それをきっかけに「ちはやふる」を読み始めたという経緯がありました。原作者である末次由紀さんの描かれる絵は、登場人物の表情のみならず、その周りの空気まで綺麗です。一カットだけで泣けたり、ため息が出たりしてしまう程で、だから良いのですが、映画版はそんな良さをも正確に理解し、再現しようとしくれている……下の句の一番最後のカットを観てそんな思いがついに確信に変わり駄目押しで号泣。切ないとか悲しいとかでなく、ただ美しいものを観て涙が出るという、本当に清々しい体験ができます。映画「ちはやふる」、未見の方はぜひ観てみてください。本当におすすめです。

 

<追記>

大事なことを書き忘れていたんですが、広瀬すずの千早は、漫画の千早とは違うんです。(少なくとも私の印象としては。)でも、美人なのにモテなそうで、ときにわがままなほど直向きで、確かに恋愛に鈍感で、不思議と整合性が合っているのです。漫画を実写化してここまでつじつまを合わせることができるなんて、神がかり的なテクニックだと思いました。

 

 

家族無計画

家族無計画

 

それから、今日はパンを焼いてないので代わりに一つ告知をさせてください。cakesで連載していた「家族無計画」が朝日出版さんから書籍化されます。5本ほど書き下ろしをいれて、これまで公開されたものにもものすごく加筆したので、連載当時とはまた違うものとなっています。Amazonにて予約受付中です。よろしければぜひお買い求めください。