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プロ専業主婦にはなれなかったが気持ちいい

「仕事から帰っても妻からの注文が多くて気が休まらない」と、ある既婚男性の友人が言っていた。そうか。大変だなあ。一方また別のときに、別の友人は「妻が休日の早朝から家の中の掃除を始めるので無言の圧力を感じて気が休まらない」などと言う。

今週は今年一番の忙しさだったので文明のありがたみをひしひしと感じながら出先から遠隔操作で子供達に夕飯のピザ届けたり、息子の制服のシャツを早朝に緊急洗濯して布団乾燥機をハック(と言うとかっこいい)した乾燥機で緊急乾燥したり、母親として維持するべき最低限度の生活をトリッキーに死守した。
色々失敗もあったがこの一週間、なんとか無事にやり遂げたぞという達成感でいっぱいになって仕事先から帰宅し、ソファに沈んだ矢先「ママ、明日は弁当がいるから!」と息子が言う。
なに!!弁当!!ゆとり教育が終わり、公立校では休みのはずの土曜にも定期的に授業が行われるようになった。おまけに息子の学校ではその日をなぞの「食育の日」とし、お弁当持参が義務付けられているのである。お弁当を作るためには米を仕込み、冷凍庫の肉を解凍する必要がある。あいにく冷凍食品などの備蓄は切れている。
今のうちにひと頑張りしてコンビニに走れば一人暮らし用の真空パックのお惣菜を調達できるぞと異次元からもう一人の私が囁きかける。しかし今週はあまりに外食に頼りすぎた。「STAY」さらに別の時間軸からのメッセージを解読した私は翌朝の私に全てを託し寝た。
そして今朝。もうこれ以上はギリギリアウトという時間にベッドから這い出し、昨夜仕込み忘れた米を早炊きで炊き、肉を解凍し煮る、卵を焼くなどしてなんとか困難な局面乗り越えた。すると、そうこうしているうちに私のやる気スイッチがオンになり、シンクの中をピカピカに磨き上げたり、コンロ周りの油汚れに洗剤吹きかけたり、今年の汚れ今年のうちに、みたいになってきた。
超気持ちよかった。
「あれやらなきゃなーでもめんどくさいなー」「これできてないなーでもめんどくさいなー」と思いながら動かずにいる時間というのは楽しているようでいてその実、苦痛なのである。一方、めんどくさいことを実行している瞬間は労力を使っているのになぜだか超気持ちいい。キッチンを綺麗にしなければ、という義務感から今まさに解放されているし、油まみれだった目の前のものたちがみるみる光り輝き出している。超気持ちいい!と思いながらふと、休日の朝から張り切って掃除する妻にに重圧を感じる、冒頭の友人男性の嘆きが脳裏をよぎる。
もし私が夫とともに住んでいたら(※あいにく夫はどこに住んでいるかわからない)私はこんなにも全身で気持ちよくなかっただろうと思う。こう見えて他人に配慮するタイプの人間なので、あんな話を聞いてしまった今となっては、超気持ちいい!に向けられている気持ちの何割かは自分の行動が同居人にどう影響するか気になってもやもやしていたはずである。

 

話は飛躍するが私の周りには少なからず「プロ専業主婦」と呼ぶべき人達がいる。その人たちはいわば奥さんのプロである。プロ専業主婦の旦那さんは高給取り、本人は美人。いわるゆトロフィーワイフの話かと思われがちだが、プロ専業主婦の突出したスキルはただ見た目が美しいだけでなく、多くの妻たちが見誤る奥さんとしての頑張りどころをてきかくに心得ているという点にある。ぬかりなく家事することや良妻賢母であること、一般的には良しとされてることが本質的には求められないということを知り尽くしている。その上で、高給取りの旦那さんの本当に居心地の良い生活環境を実現し「色々あるけどこの妻のためにもっと金を稼ぎたいな」と思わせるのである。旦那さんは高給取りなんで今夜はリッツカールトン、明日はマンダリンオリエンタルみたいに、別に家に帰らなくとも寝床などいくらでも調達できるが、それでもきちんと家に帰ってくるように仕向ける。これがプロ専業主婦のなせる技なのだ。誤解を恐れずに言うと、だいたいそういう女性たちは過去に一定期間、水商売でのアルバイト経験がある。酒と女が金次第でいくらでも自由になる場で、男性の欲望を熟知しているのである。
専業主婦を売春婦と同じなどと言って揶揄する人もいるが、そもそもこの世の中、誰かの顔色をうかがったり、媚びたりせずに仕事してる人なんていない。中川淳一郎さんの本夢、死ね! 若者を殺す「自己実現」という嘘 
にも書かれているように、誰だって上司や取引先、お客さんに怒られないために仕事している。給料を少しでも上げてもらえるように、クビにされないように、自分の技術や労力を提供し、その対価としてお金を稼ぐのだ。それは蔑まれるべきものでなく、生きるための当たり前の営みである。そりゃ誰もが人としての尊厳を尊重され、意思をねじ曲げられることなく、嫌なこと何一つやらずに生活できればそれに越したことはないが世の中そういう風にはできていない。他者との関わりの中で、ときに地べたを這うようにもがきながら。上司はこの企画書好きだろうとか、お客さんはこっちが好きだろうとか自分のことは二の次に、綺麗に言えば誰かの顔を思い浮かべ、その人のために働くのである。同じように、妻が、夫の理想を実現するプロに徹して何が悪い。 ましてや夫が高給取り。あらゆる職業の第一線を走り、トップクラスの収入を得る人たちが皆、惜しみない努力を続け、強靭な精神力を養った超人であるのと同様に、プロ専業主婦達もまた(それと見せないようにしているだけで)超人なのである。だから私は彼女達を尊敬しているのである。

一方、私は、今でこそ仕事をしているが長い間専業主婦だったので、せっかくならと持ち前の向上心でプロ専業主婦への転身を目指し努力したこともあった。その中では、キッチンを常に隅々まで清潔に保つことと、完璧主義でない、頑張り過ぎない妻を演出すること、何がベストな選択なのかと思い悩むこともあった。
しかし今朝、お弁当を作り終えた8時半に、なぜかドッグフードと雑巾が床に散乱した悲惨なリビングはそのままに、油汚れでベタつく換気扇の羽に洗剤をスプレーしながら、やりたいことを、やりたいときに、やりたいようにやるこの「超気持ちいい」は、今の私にとって何物にも代え難い快感であるとはたと気づき、感動に打ち震えた。換気扇の羽を手に、超気持ちいい快感に打ち震える超気持ちいい快感にもまた打ち震えた。
私はプロ専業主婦にはなれなかったけれど、今まさに超気持ちいい快感を味わっているし、自由であるし、最高だと思った。

 

2+2+2+2+2でも、5+5でも、2+8でも、1+9でも、答えは全て正しく10なのである。

 
 
 
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ところでこれは今日作ったパン生地。
膨らみが今一だったので朝ごはん用のピザ生地のストックに。