あなたがパートナーに求めているそれは本当にコミュニケーションとしてのセックスと言えるのか問題

参考記事

夫婦の皆さん、なるべくセックスはした方がいいと思います。 - 手の中で膨らむ

セックスと宇宙とスペースシャトル - 手の中で膨らむ

 

 

月1回程度、あるいはそれ以上コンスタントにセックスする夫婦と、1年に1回する(かしないか)という程度の夫婦ではセックスの意味合いが全然違う。実行にいたるまでの準備、肉体的な負担、終わった後の脱力感。コンスタントにやっていれば定例ミーティングくらいの規模感だが、そうでない夫婦にとってのたまのセックスというのは、例えば福岡市民にとっての山笠にも匹敵する一大行事である。

一大行事化すればするほど執り行うまでの精神的なハードルはどんどん上がる。かといって、最も情熱的なあの頃のように黙ってても事が始まるような時期はとうに過ぎている、私たち場合一体どうすればいいんでしょう。というところまでが前回のあらすじである。

 

早速話を進めたい。

個人的なリサーチによると、結婚してから5年以上経って、子供をもうけても尚セックスがコンスタントにある夫婦というのは、いたって基本的なことではあれど、まずは子供を早く寝かせる、あるいはたまに実家に預けるなどして、夫婦の時間を意識的に設けている。その上で、膝枕したりされたり、お互いが無防備になるような接触の機会を作っている様である。

 

彼らに話を聞いていて特に興味深いと感じたのは、「夫がケーキを買って帰ってきたら今夜やろうの合図」「夫婦2人だけになった際に、どちらかがアイスクリームを出してきたら始まりの合図」という具合に、レッツスタート!を間接的に示す暗黙のルールが出来上がっている場合が少なくないという点である。YES/NO枕方式と酷似しているが、その実YES/NO枕ほどそれぞれの意志が強く主張されないところが結構大きなポイントだ。そりゃケーキを買ってきた夫とか、アイスを持ってきたどちらか一方とか、厳密に言えば誰かの意志が必ず反映されている。でも厳密に言わなければ、ぼんやりとした共通認識が生まれるきっかけに過ぎず、彼らのセックスは基本的に、どちらからともなく始まっている、という体をなしているのである。

 

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セックスレスについて取り上げた一番最初の記事「夫婦の皆さん、なるべくセックスはした方がいいと思います。 - 手の中で膨らむ」の中で、「女性はツンデレだからセックスに誘いたくてもなかなか誘えない」というようなことを書いた。これについて補足すると、多くの女性はそもそも夫にセックスを求められることを求めているので自分から誘おうとしないのだ。夫にセックスを求められることで、自分の女としての価値が損なわれていないことを確認し、安心したいと思っているのである。

 

もちろん、男性だって同じように求められたいようである。いつまでもモテたいと願う気持ちの裏にはいつまでも自分が気持ち悪い奴かもしれないという大いなる不安が巣食っている、二村ヒトシ先生の著書「すべてはモテるためである」を通じてそんなことを学んだ。だから男性だって求められて安心したい気持ちは根本的には女性と同じようにあるのだろう。

 

ただ一方で、果たしてその大いなる不安が、奥さんから貪欲にセックスに誘われることでクリアになるのかという点について、私は疑問を持っているのである。妻ではない女性に認められることでしか慰められない部分もあるんじゃないのかと。

 

その点、妻達の多くはかなり切実に「夫に」求められたいと願っている。少なくともそんな風に私には見受けられる。そもそもよそで確認済であればわざわざ夫相手に確認したいと思わないのだ。デレたいけれどもツンツンしてしまう妻の気持ちの裏には、他でもない夫に求められたいという切なる願いがあるのだという点をぜひ、世の旦那さん達には寛大に理解してあげてほしい。夫にさえ求められれば自分を安心させることができる。だからこそ、夫がセックスして「くれない」、自分が求められていないと、妻達は受身で傷つくのである。

 

そうは言っても、一度口説き落とした女性を、落とす前と変わらず情熱的に、永続的に死ぬまで求め続けろと男性に要求するのも、なんかちょっと酷だなとも思う。

 

そこで私は考えた。ひとつの試みとして、まず手始めに妻の側が、女として求められたい欲求を相手に満たしてほしいと願うこと自体、やめてみたらどうだろう。

場合によっては同じことが男性にも言えるかもしれない。自分のセックスにおけるスタンスを一旦冷静に見直してみて、妻に受け入れられることの先に少しでも自尊心を満たしたい欲求が潜んでいるようであれば、そう望むのをやめてみたらどうだろう。

 

これは別にその矛先を家庭の外に向けようと提案しているわけではなくて、ことセックスする上で無意識に発揮される自分のエゴイスティックな部分、その中の一種類を少しばかり律してみてはどうだろうということなのだ。そんなこと出来るのかと思うかもしれないがまずは自分の無意識に自覚的になるよう努めるだけなので他人を動かすよりはるかに容易いことだと私は思う。

そもそも考えてみてほしい。求められたい、だから求めて!と要求して求められたってなんかちょっと虚しいじゃないか。だいたい自尊心を満たすために相手を巻き込んで執り行うセックス、それをコミュニケーションと銘打つこと自体正しいことだと言えるのだろうか?

 

たとえばどちらかが強引に求め、どちらかが求められるままに応じる、どちらかが精神的な優位に立ち、どちらかが奉仕する、どちらかが攻撃し、どちらかが攻撃される、そういう、アンバランスで非常識な関係、程度はあれど基本的にはセックスの最中にしか成立しない非日常的な関係が、抵抗なく性的興奮の材料となり得たのは、お互いがまだ出会って間もなかった頃の話ではなかったか。未開拓な余白が想像力をかきたて、その場の演出を都合良く理解させていたからだと言えないだろうか。

 

しかしかつて恋人同士だった2人は今や夫婦となり、家族となり、生活を共にしている。お互いの細部にいたるまで知り尽くしてしまったのである。2人の関係性がこうも変化してしまった以上、そんな2人の間に発生するセックスのあり方もまた、柔軟に変化させていく必要があるのではないか?変わりきった2人の間に、いつまでも恋人同士だった頃と同じセックスを求め続けるからこそ継続が困難なのだ。長い間夫婦としてやってきた2人の間でコミュニケーションとして成立するセックスとは、おそらく求められる側、求める側の境界が限りなく曖昧なもの。少なくともお互い自分の中でだけ、その立ち位置を都合よく解釈することが可能なもの。もしくは突き詰めて、お互いに自分ばかりが与えられることを望まないもの、なのではないだろうか。

 

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少し前のことだが、ある友人夫婦が夫婦間でお互いの歯を磨き合っていると聞いて私は驚愕した。正直、いい大人なのにどうして自分で歯を磨かないのかと唖然とした。けれども今となっては…そう、自分の境遇を棚に上げ過去2回にわたりセックスレスについて取り上げた今となっては、歯磨きやマッサージや耳かきや爪切り、そんな、赤ちゃんが必要とするようなお世話を、手取り足取り夫婦間で施し合う、実はそういうところにこそ、夫婦のセックスレス問題解消の鍵となる要素が隠されているのでは、とにらんでいる。

 

先に述べたように、相手が自分を求めることを確認したいとか、あるいは逆に相手が自分の求めに応じることを確認したいとか、そういうのって結局のところ、ただ相手を使って自分の欲求を満たすことを目的としたケチなセックスである。そんなケチなセックスが実現しないことを悶々と思い悩むくらいなら、もういっそ大切なパートナーを、セックスに限らない自分の行いによって幸せにする、そのことだけに注力してみたらどうだろう。愛おしさのあまりついつい放っておけないという気持ちを自らの中により強く呼び起こし、2人の時間に赤ちゃんのようなお世話をし合ってみるのだ。(※愛おしい気持ちが全く湧いてこないというのであればそれはまたセックスレスとは別次元の問題であってまずはお気持ちお察しします)

別にいい大人がパートナーの前でだけ赤ちゃんになったって何の問題もない。小っ恥ずかしい気持ちを捨て去ってニャンニャンばぶばぶ言い合ったらいいじゃないか。いや愛おしい気持ちはあるんだけどさすがにいきなりばぶばぶ言い合うのは難しい、膝枕したりマッサージしたり歯磨きしたりなんて難しいというのであれば、アイスクリームが出て来た日に限って「なぜか」必ずセクシーバブバブハプニングが起きるという自然な現象を立て続けに引き起こし、いわゆる導線を確保してみてはどうか。そこから段階的に接触時間を増やしていって、より長い間、自分の行動によって相手の幸せな状態を維持しようと試みる。で、結果としてその先におまけのように自然な形でセックスがついてきたら、この試みは大成功である。

 

セックスレス問題に果敢に切り込み、満を持して提案した渾身の一手がまさかの赤ちゃんプレイ。ついに本格的な程度の低さを露呈してしまったようで恐縮だが少なくとも私は本気である。せっかくなのでぜひどなたか実験してみてください。で、3ヶ月後くらいにあらためて結果の方ご報告いただけると大変ありがたいです。

 

 

……さてここまで書いてきて、もしかすると一部の人はこんな思いを抱いているかもしれない。「いくらなんでも自分のことを棚に上げ過ぎなんじゃないか」と。

 

このたびついにそんなみなさんの疑念、くすぶりがひとつになって、7/16(水)下北沢の本屋さんB&Bにて、ライターで友人の福田フクスケ君とともにトークイベントに登壇させていただくことが決定しました。

 

家入明子×福田フクスケ「日本一炎上しがちな夫を持つ妻と、独身アラサー男子の、AM公開相談室 」 | B&B

 

丁寧かつ赤裸裸に作られている女性のためのネットメディアAMさん企画のイベントで、私の個人的なことについてお話させていただくほか、お客さんからいただいたお悩み相談の時間も設けられる予定だ。ということはつまり、お客さんにご来場いただかなければお悩み相談も自作自演、自問自答するしかなくなってしまうということなので、その点何卒ご理解いただき、人助けのつもりでどうか遊びに来てください。お待ちしています。

  

※今日のパンはお休み。