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24人の子供達とパンを焼いてきた

娘の通う小学校には「総合」という学習があって、1年間、またはそれ以上かけてクラス全員で1つの課題に取り組むのだ。テーマはその年によってさまざま、長男のときは「めざせうどん職人」ということで2年間かけてうどんの手打ちを極めた。こんなにしょっちゅううどんを打つ小学生はさすがの香川県にもいないだろうというくらい熱心で、最終的には某大手製麺会社の強力バックアップのもと、うどん煎餅というオリジナル料理をも作り出した。

そんな総合の学習で今年、小3の娘たちはパン職人を目指すことになったのだ。

室温、水温、粉の種類、分量、発酵時間さまざまな要素が複雑に絡み合った奥深さを持ちながら、しかも捏ねるとめちゃくちゃ気持ちいい製パン。子供の教育になんてピッタリなんだ。盲点だった。先生、ナイスチョイス。これは黙っていられないぞ、ということで早速初回の、なにも分からないけれどとりあえず焼いてみる授業をお手伝いしてきた。先生曰く「今日のすべての予定をパンのスケジュールにあわせました。休み時間も掃除もずらします!眼科検診もうちのクラスだけ無理言って前倒しにしてもらいました!」とのことで本気をひしひしと感じながら授業がスタート。

 

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「今日はビッグなゲストにおこしいただきました!日本パン大学を卒業、パンコンクールで優勝、パンを焼き続けて15年の、明子先生です!」という、担任の先生のご紹介を受け、私はたじろいだ。何一つ真実がない…!しかし子供達はそこに何一つ真実がないことを見抜いた上で、一瞬でドッと沸いたので、先生さすがプロだなと感銘を受けた。たまたま目の前の席に座っていた我が娘も困ったように笑いながら、なんだかとても嬉しそう。そこで私も子供達にご挨拶した。

私「みなさんこんにちは。日本パン大学を卒業し…」

子供達「アハハハ!」

私「パンコンクールで優勝…」

子供達「アハハハ!」

私「パンを焼き続けて15年の…」

子供達「アハハハ!」

私「明子先生です、よろしくお願いします」

子供達「アハハハ!」

 

大人なら2回重ねたあたりでアハハハ、が徐々に義務的になって3回はもういいよみたいな投げやりな愛想笑いになっているのが常だが、小3の子供達はこれが自分たちの使命だと言わんばかりに最後まで同じトーンでウケ続ける。なんて律儀、なんて健気!

正直、製パンは難しい。捏ねるのに力もいるし、丸めるのにすら結構なコツがいる。しかしこんなにも律儀で、健気で、根気づよく笑う、使命感に駆られた子供達ならば……!

私の予感は的中。初めて強力粉を捏ねる子供達だったがみんなかなり手つきがいい。子供の作業だからと捏ねだけで1時間はみていたが、30分もしないうちにあちこちの班で非常に良い状態のグルテンが散見され出した。しかし捏ねは気持ちがいいので子供達も夢中、止めようにも止まらない。そのうち生地の扱い方にも誰に教わったわけでもないオリジナリティが出てくるので面白い。柔らかく弾力性があるものを揉み揉みする際につい性格が出ちゃうのは大人も子供も同じなんだな、などと考えているうちに、まとまりきった生地を、まだだ、まだ許さんぞといわんばかりにブチブチ千切ってはつなぎ、千切ってはつなぎする子も現れ始めたのでヒヤッっとし、先生さすがにもう良さそうです、とお伝えし、行程は一次発酵に。

 

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子供達の暖かい手で捏ね上げられた生地はぐんぐん膨らんだ。

発酵に要した1時間、子供達は休み時間と学習のため家庭科室を出ていたのだが、戻ってきて生地を見るなり口々に絶叫。

「キャアアアアア膨らんでるーーー!!!!」

そ、そんなに!?そんなに喜んでくれるの!?たしかに発酵して膨らむってすごく面白くって、子供達はきっと驚くだろうな、と予想はしていたけれど…まさかあちこちで叫び声が上がるほど歓喜してくれるとは思いもよらず、あまりにも素直、そしてやっぱり律儀で健気な子供達に思わず目頭が熱くなる。漫画『ちはやふる』で転校してきたばかりの新が千早に出会い、「かるたって面白いね!」って言われたときの喜び…「チームになってみたいんや」が実現された喜び…。これまでの孤独のパン作りが走馬灯の様に脳裏を駆け巡った。膨らんでびっくり、膨らんで嬉しい気持ちを私と同じ、あるいはそれ以上に強く感じ、素直に表現してくれる小さな仲間達…!

 

発酵の状態を調べるためにフィンガーチェックといって、生地に一度指を突き刺す行程があるのだが、一度、と言っているのに一部の班の子供たちの生地はアタタタタ!みたいな襲撃に遭って蜂の巣になっていた。ちがう、それはちがう、と内心慌てたがこれも初回。徐々に1つ1つ教えていこう。

一次発酵を終えた生地を、拳でぎゅーっと押さえ込むようにして発生したガスを一度抜く。これを「パンチング」と言うのだが、パンチという言葉で火がついた一部の男の子達が親の敵のように生地に辛辣なパンチを繰り出し生地がサンドバッグ化していた。ちがう、それはちがう、とやはり内心慌てたが、やはりこれも初回。徐々に1つ1つ教えていこう。……彼らはせっかくできた私の仲間なのだ!

 

成形の際、1人の男の子が丸めた手のひらサイズのパン生地を見て「これに小さな丸い生地をもう一個乗せたら乳首」とニヤッと笑いながら呟いた。そういえば先日パン作りを初体験したというアラフォーの友人が「丸めた生地に梅干しを乗せたら乳首」と似たようなことを言っていたのを思い出し何とも言えない気持ちになった。

 

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時間の関係で子供達は給食を食べに教室に戻り、その間に焼成は大人で行った。初めてにしてはかなりいい出来だ。

 

給食後、家庭科室に戻ってきた子供達は焼き上がったパンを見てやっぱり絶叫して喜んだ。試食の段になると、もう何日もご飯を与えられていない飢えた子供のように、バターもジャムもついてない素朴なパンを美味しそうに頬張った。

「焼きたてのパンってこんなに美味しいんだ!」

「残った2個は持って帰って家族6人で分けるんだ!」

「後1個食べたいけどママと妹に持って帰らなきゃ…」

最後の感想まで素直だった。

 

子供達との製パン、本当に楽しかった。準備の時間も含めると約5時間かかったが、それでも十分やってよかった。楽しい、面白い、びっくり、嬉しい、を思うままに表現できる純粋なエネルギーを浴びまくった、素晴らしい時間だった。

小さな仲間達とともに、これからも沢山パンを焼いていきたい。

 

※写真提供:大澤幸さん@ピザ名人 ありがとう!