パンを焼くのは気持ちいい。


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パンを焼くのは気持ちいい。

たとえば食器を洗っていると、昔やらかした失敗とか明日考えることにしているあれこれが嫌が応にも脳裏をよぎってどんよりする。その点パンを焼くのは最初から最後まで気が抜けないのでしょうもないことに思いを巡らせる暇がない。分量をはかって、グルテンを作って、発酵して、成型して、焼く。これだけ集中していているのに全く理想通りにいかない。そこもまたいい。

これまで私は製パンの魅力を友人たちに語る上で、強力粉とイースト菌は素直で従順、だからいいのだと強く主張してきた。しかし今日初めてパン教室に行ってみて、今まで見よう見まねでやっていた私の手ごねではろくにグルテンが形成されておらず、また焼き上がりのイースト臭さは過発酵によりイースト菌が死滅していたことに起因していることが分かった。素直で従順なはずの強力粉もイースト菌も、実は全く私の思惑通り育ってはいなかった。しかし本人たちに悪気はなかったのだ。強力粉にもイースト菌にも、私を裏切ってやろうなどという気持ちは微塵もなかった。ただ私の、彼らへの理解が足りなかっただけ。従順な振りしてものすごく複雑な内面を持ち合わせてる。そこがまたいい。

パン生地は、捏ねて捏ねて、摩擦しなければいいグルテンをつくらない。また適度に手の温もりを伝えなければ発酵が促されない。しかしそれでいて必要以上に触れられることを嫌う。触れると硬くなるので、手で触れた後には、ベンチタイムといって、しばらく触れないで常温で放置する時間をとる。ツンデレか。

発酵には35度ぐらいが適している。
30分から、場合によっては一晩かけて発酵させる。その間も、気になる。膨らんだかな、膨らみ過ぎてないかな。パン生地のことばかり考えてしまう。
会えない時間が愛を育む。

パン生地の発酵が順調に進んだかどうかはフィンガーチェックする。2倍ほどに膨らんだ生地に、強力粉をまとわせた人差し指を突き刺すのだ。しかし純愛だからこの部分に他意はない。

発酵が順調に済んだパン生地は耳たぶみたいな感触。
私は小さい頃からずっと、母の耳たぶを触るのが癖だった。そうしないと寝られなかった。年頃になって、さすがに母の耳たぶばかり触ってもいられなくなると、今度は自分の耳たぶを触り始めた。今でもついつい自分と、そして子供たちの耳たぶを触ってしまう。(男性の耳たぶは手触りがよくないのでNG)生まれてこのかた様々な手触りの良いものを触ってきたけれど、女性と子供の耳たぶに勝るものはない。次点でおばあちゃんの二の腕の内側。長年この順位は不動であったが、パンを作り始めてからというもの、耳たぶとパン生地がついに並んだ。今思えば、初めてきちんと発酵が進んだパン生地を触ったとき、「やっと会えたね」と告げるべきだった。
出会うべくして出会った私たち。

オーブンの中で共に過ごした時間は集大成を迎える。食べられるくらいに焦がす。かといって生焼けはだめだ。


パンを焼くのは気持ちいい。
これからもパンを焼いていきたい。