『りこんのこども』取材に応じてくれたお子さんの、お母さんからの言葉。

先日カフェで仕事をしていると、隣に座っていた10代後半〜20代前半と思しき女の子2人の会話が耳に入ってきました。

「お母さんに彼氏がいたの。怪しいなと思ってたけど、やっぱりいたんだよね」

淡々と話す女の子の様子に、お母さんはシングルマザーだったのかな、と思いきやそうでもなさそうで、お父さんは目下カンカンに怒っているとか。これから離婚に向けた話し合いがもたれるそうです。

「お父さんが可哀想だね」

と話を聞いていた友達が言うと、女の子は即座にそれを否定。

「もとはと言えばパパが先にずっと浮気してて、それをママが我慢してきたの。だから仕方ないっちゃ仕方ないけど、でもママが再婚したらいやだな。だってもし私が結婚することになったら、バージンロードをそのママの彼氏と歩くことになるわけでしょ?そんな全然知らない人と歩きたくないよ」

そうだよねえ、と心の中で呟きつつ、ついしばらく彼女の話に聞き入ってしまいました。

 

 

りこんのこども

 

 本日、2冊目の著書となる『りこんのこども』 がマガジンハウスより発売されました。

この本には、両親の離婚を経験した子ども達の、6つの家族の物語が収められています。

制作にあたっては実際に、小学5年生から高校3年生まで、8人の子ども達に取材をし、今の暮らしや、親の離婚についてどう思っているのかといった話を聞きました。

取材を始めた当初は、子ども達が自分の離婚をどんな風に話してくれるのか、仮にもし両親の離婚が彼らにとって何らかの心の傷をつけたとしたら、この取材がそのかさぶたを剥がしてしまうことになるのではと、少なからず不安もありました。ところがいざ取材が始まってみると、意に反し、子ども達はとてもたくさんのことを 、初対面の私に、とても正直に打ち明けてくれました。

 

最近よく思うことに、私にとって自分のことをエッセイに書くというのは、自分自身を癒す作業、自分の中の混沌を整理し、その前より少し楽な方向に、混迷の出口を用意してあげる作業です。同様に、何かの取材を受けるときもそうで、話しながら、「そうだ、こういう風に考えたらいいんだな」と思い至ることもあります。

かなりおこがましい望みではあるけれども、取材中の子ども達の様子を見て、せめてこの時間が、彼らにとってそんな、自身の体験の整理のための一助となってくれれば、そんな風に思っていました。

 

……だから、先んじて原稿を読んでくださった親御さんから、「紫原さんに作っていただいた物語で、うちの子も私も救われる気持ちになりました」とメールをいただいたときには、嬉しくてつい涙が出てしまいました。その言葉で、私の方が救われた思いでした。つくづく、素直で愛しい子ども達と、寛大な親御さんとの出会いに支えられた1年でした。

 

今回それぞれの物語は、取材した事実をもとに、小説のような体裁で書いています。取材中の言葉だけを切り取るより、子ども達の生活する様子が見えた方が、より私が受けた印象に近いものとして伝えられると考えたからです。

ただ、慣れないこのやり方には本当に苦労しました。私の技術の稚拙さを嫌が応にも実感させられ、何度も何度も修正し、時間もかかってしまいました。そのため、出版社の方にはご迷惑をおかけしてしまったと思います。けれども、一冊の本として仕上がってきたものを見返してみると、その分、本当に良い本に仕上がったのではないかと感じています。

 

改めて、今回の取材に快く協力してくれた子ども達、そして親御さんに、心より御礼申し上げます。また、時間に追われる大変な状況下で、根気強く併走してくださった編集の鎌田さん、鉄尾さん、本当にありがとうございます。

 

前作『家族無計画』は大人の事情であるのに対し、『りこんのこども』は図らずも子どもの事情のお話となりました。ぜひ、あわせてお手にとっていただけると嬉しいです。 

りこんのこども

りこんのこども

 

 

家族無計画

家族無計画

 

 

 

 

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長きにわたり抱えていた制作が一段落したので、またパンを焼き始めました。

これはピタパン。中が空洞になっており、半分に切って具を詰めます。

最近ていねいな暮らしが止まりません。暴走するていねいな暮らし。